2019-05-21
IchigoJamのCPU、LPC1114 Arm Cortex-M0のマシン語には、割り算命令がありません。
参考:マシン語表Cortex-M3以降にはあります SDIV/UDIV)

無いものは作ればOK!(IchigoJamでのR3はここでは封印

N / M = A ... R(A:商、R:あまり、ただしNもMも正の整数とする)という割り算をする場合、割り算記号を使わずに作成できればOKです。何か、得意な言語で作ってみましょう。

例えば、IchigoJam BASICなら

10 INPUT N 20 INPUT M 30 A=0 40 N=N-M:IF N>=0 A=A+1:CONT 50 N=N+M 60 ?A;"...";N RUN ?300 ?7 42...6

割り算記号を使わない割り算、できました!

これをasm15マシン語にします(USRでは引数が1つなので、割る数R1に7と設定)

R1=7 R2=R0 R0=0 @LOOP R0+=1 R2=R2-R1 IF GE GOTO @LOOP R0-=1 R1=R2+R1 RET

アセンブルしたバイナリ(18byte、R1設定を除くと16byte)を使って、動かしてみましょう

POKE#700,7,33,2,70,0,32,1,48,82,26,252,218,1,56,81,24,112,71 ?USR(#700,300) 42

これで完成! ・・・としてもいいのですが、割られる数が大きくて、割る数が小さい時、何万回もループすることになって遅そうです。

例えば、30000/1を計算する場合、1ループ5cycle3万回で15万cycle。CPUの周波数48MHzの逆数、21nsecが1cycleにかかる時間なので、63万nsec = 630usec = 0.63ミリ秒かかります。 足し算引き算かけ算の15万倍も遅いとなると、高速処理が命のゲームで使うには厳しいこともありそうです。

そこで登場、アルゴリズム(問題解決手法)!

ひとまず簡単に思いつくところで、2進数を使った筆算アルゴリズムで高速化してみます。 割り算を手で計算するときに筆算を使うように、大きな桁からかけ算して引いてを繰り返して答を求めます。 幸い、2進数の筆算は0か1かしかないので、とってもシンプル。何か書きやすいプログラミング言語でアルゴリズムを確かめます。

10 INPUT N 20 INPUT M 30 A=0 40 FOR I=10 TO 0 STEP -1 50 L=M<<I 60 IF N>=L N=N-L:A=A+1<<I 70 NEXT 80 ?A;"...";N RUN ?300 ?7 42...6

(変数が16bit用に、IchigoJam BASIC桁溢れ防止のため10bitシフトからスタート)
前の手法に比べて速くなったことが体感できましたね?では、こちらをマシン語にします。

R1=7 PUSH {LR,R4} R2=R0 R0=0 R3=16 @LOOP R4=R1 R4<<=R3 R2-R4 IF LT GOTO @SKIP R2=R2-R4 R4=1 R4<<=R3 R0+=R4 @SKIP R3-=1 IF !MI GOTO @LOOP R1=R2 POP {PC,R4}

ループ回数が16回にまで劇的に減り、先の最悪の場合と比較し、約1000倍高速です!

ただし、その代償として、マシン語の量が32byteと16byte増えてました。これが多いか少ないかは状況次第です。 また、割る数と割られる数が近い場合は毎回150cycleかかる今回の手法と違って、単純ループの実装の方が速かったりします。 状況によって使い分けましょう。

OSとしてのIchigoJamとしては、汎用的に使われることを想定して、あまりに遅い除算は残念なので、第二案でいきたいです。 ただ容量は極力小さくしたいので、かけ算が1cycleで動くことを利用して、もうひと工夫縮めてみます。

R1=7 PUSH {LR,R4} R2=R0 R0=0 R3=1 R3=R3<<16 @LOOP R4=R1 R4*=R3 R2-R4 IF LT GOTO @SKIP R2=R2-R4 R0+=R3 @SKIP R3=R3>>1 IF !0 GOTO @LOOP R1=R2 POP {PC,R4}

2byte縮み、引き算する場合のcycleが2減りました!
たった2byteと笑うかもしれませんが、その2byteを削るのに結構苦労したりするんです。

POKE#700,7,33,16,181,2,70,0,32,1,35,27,4,12,70,92,67,162,66,1,219,18,27,24,68,91,8,247,209,17,70,16,189 ?USR(#700,300) 42

実は、まだ落とし穴があります。マイナスの値で割り算の計算をさせてみてください。
おかしくなりますね。また、割る数に0を指定した時にどんな動きをしてほしいです���?
すべては、あなたの思い次第!

より高速で効率良いアルゴリズムを探してみるのも楽しそうです。Wikipediaの「除算」を見てみると、懐かしの割り算バグありPentiumの話がでてました。 試行錯誤の積み重ねで、今のコンピューター社会ができていることがわかります。

- 連載、IchigoJamではじめる、Armマシン語入門
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14. サイズを取るかスピードを取るか、割り算のアルゴリズムとマシン語実装
15. マシン語化で1万倍速!? セットで学ぶアルゴリズムとコンピューター

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