2016-08-16
じっくり取り組むマシン語も楽しいですが、手軽で便利なマシン語ならではの技を紹介します。

CPUには足し算、引き算、メモリアクセスなど基本的な機能の他に、CPUによってそれぞれ固有な機能があります。現代のパソコンやスマホに使われる高性能なCPUには、3Dグラフィックスや、音声、映像などの処理の高速化のために、4つの計算を同時に行うなどのSIMD命令が含まれます。ほとんどのスマホで使われているArmアーキテクチャー、Cortex-AにはNEONというSIMD機能が搭載されています。

電源が限られるモバイルにおいて、いかに無駄な電力消費を抑えつつ、サクサク軽快なアプリを提供するかが重要です。C、JavaScript、Swiftでは、CPU固有の機能を表現する方法がないので、マシン語を使って、コンピューターの性能をフルに引き出しましょう。誰かがつくった機能(ライブラリ)を使わせてもらうのもいいですが、自分でも作ってみたくもなるでしょう。(参考「iPhoneでのピクセル処理をNEON(ベクタ演算)を使って4倍高速化する」)

IchigoJamが使っている低電力CPU、LPC1114は、Arm Cortex-M0という、Cortex-Aと命令に互換性があるサブセット(一部)です。SIMD命令はありませんが、BASICやCでは扱えない特別な演算があるので、今回はそれらをカジュアルに使います。

Cortex-M0 マシン語表(抜粋)」に、特殊演算を追記しました。

※BIC:ビットクリア、ASR:符号付き右シフト、ROR:右ローテート
※REV:byteオーダー反転、REV16:byteオーダー反転(2byteずつ)、REVSH:符号付き16bitを反転32bit化
※ADC:キャリー付き足し算、SBC:キャリー付き引き算

IchigoJam BASICには当てはまる演算子がないために、関数のような書き方にしていますが、これらの計算はすべて、通常の計算と同様、1サイクルで処理できます。IchigoJamの場合、48MHzで動作させているので1サイクルは約21ナノ秒で計算は終了します(iPhone6sは最大1.84GHzなので約40倍高速な0.1nsec)。

BIC:指定したビット位置のみをクリアする。普通に書くと Rd = Rd & ~Rm と、2回の演算が必要。
ROR:指定した数だけ右にビットシフトして、はみ出た分は上位ビットにセットする。
REV16:16bitの上位8bitと下位8bitを入れ替える(上位32bitも同様に)

I2Cで外部センサーから取得したビッグエンディアン(=最初に上位8bitがある)なデータの読み取りに便利そうな rev16 を実際使ってみます。

[0]=`1011101001 000 000 :'R0=rev16(R0) [1]=#4770 ?USR(#800,1) 256 ?HEX$(USR(#800,#3412)) 1234

#4770は呼び出し元に戻るRETURNのマシン語です。(Z80でいう#C9)
同じコードをIchigoJam BASICで書くと、下記のようになります。配列を使う場合長くなるので、繰り返し使うならちょっと有利です。

N=#3412 ?N<<8+N>>8

マシン語をいれておくメモリとして、PCG領域を借りて、下記のように書くこともできます。このように、別のプログラムでいろいろな便利な関数を用意しておき、メインのプログラムを呼び出すとメモリを有効に使えます。

10 POKE#700,#40,#BA,#70,#47:P=#700 20 ?HEX$(USR(P,#CDAB));HEX$(USR(P,#3412))

Cortex-M0 マシン語表(抜粋)」にサイクル数を追加しました。ほとんどの命令が1サイクルで終了することが分かります(LPC1114は掛け算も1クロック!)。実行時間が正確に計算できるのもマシン語のいいところです!

ハンドアセンブルでコツをつかんだら、アドレス計算も自動でやってくれるArmアセンブラ搭載、Mac/Windows/Linux対応IchigoJam用ツール「IJUtilities」が便利です。C言語からIchigoJam BASIC用のコードを生成する「rohiniku/IchigoJam_bin2poke」の逆アセンブル機能を使った解析も勉強に便利!

Armマシン語は、スマホでもそのまま活かせる究極の高速化テクニック。自分の書いたコードが実際どういうマシン語になるかだいたい想像できる程度には押さえておきましょう。

C言語やJavaScriptでお馴染みの「i++」という iに1足す演算子が、Swift3ではなくなってしまいます。MSXでZ80マシン語で1足す命令(INC)や1引く命令(DEC)を知っていたため、ごく自然に受け入れて今でもよく使っているだけにさみしいものがあります。Z80では1足す専用の命令、INCを使えば足し算命令ADDよりサイズが節約できました(機械語の手帳 ステート数表)。ただ、近年使われるよくArmは、1足すのも2足すのも255足すのも、速度もサイズも一緒。演算子削減の一因かもしれません。

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14. サイズを取るかスピードを取るか、割り算のアルゴリズムとマシン語実装
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